人間科学からみた日本のワークプレイスの未来~新しいオフィスデザインとは~

名古屋市立大学 佐藤

「ひと」の実態調査をもとにした「はたらく場」「はたらき方」の研究を中心に取り組まれている佐藤 泰氏[名古屋市⽴⼤学 ⼤学院芸術⼯学研究科 建築都市領域 講師/博⼠ (⼈間科学)]にお話を伺いました。
   コミュニケーションの活性化やワークエンゲージメント向上をテーマにフリーアドレスに取り組むものの、想定通りにいかない企業も多くワークプレイスはコミュニケーションを促す物理的な環境整備だけではなく、その場が活用されるイメージ(=「文脈」)が組織の中で定着していくことが大切とおっしゃられました。後半では、“ワークプレイスを活性化するための仕組み作り”、“ワーカーが求めるIWMSの役割や可能性”について、ご所見を伺いました。

コロナ禍以降の在宅ワークの評価傾向

在宅ワークの「作業のしやすさ」や「満足/不満点」に関して、初めての緊急事態宣言から約1年後の2021年4月にWebアンケート調査を実施しました。この調査から、在宅ワークの評価として興味深いことが分かりました。
   「創造性発揮」と「効率的業務」の主観評価が高いのは、“個人業務のやりさすさ”や“作業環境の満足”の高いクラスター(群)のワーカーで、在宅ワークの作業環境が整っていると感じている人は、やはり創造性や効率性の主観評価が高い傾向にありました。一方、在宅ワークの作業環境に満足していても、“コミュニケーションのとりにくさ”や“情報共有の不満”が高い群では「自身の成長や働きがい」の評価が低いことが分かりました。
   出社すると、上司に声をかけられたり隣の席の人と無駄話をしてしまったりして、作業効率としては自宅の方が良いこともあると思いますが、長い目でみると、単なるコミュニケーション不足だけでなく、周りのサポートを感じにくいことから社員のメンタルヘルスやワークエンゲージメントに影響が生じ、徐々に組織全体のパフォーマンスが下がる可能性があります。

コロナ禍以降の在宅ワークの評価傾向

⽵中⼯務店ワークプレイスセミナー2022講演資料から抜粋

ある日、企業の方から「今の学生さんはコミュニケーションについてどんな考えを持っていますか?」と、学生の感性について質問を受けたことがあります。これからは転職や副業という選択肢も出てくる中で、自由な感性を持ちワークライフバランスをうまく取り入れていく時代です。日頃学生と関わっていると、学生はまだ社会的に責任のある仕事に携わっていないケースが多く、コミュニケーションや関係性構築の重要性が分かっていないという一面もあると感じます。
   今の20代や新入社員の方も、40代ぐらいになると意外と同じような考え方になる可能性もあります。先ほどご紹介した調査結果を踏まえると、組織や社会が若者の感性に合わせすぎることで関係性が希薄になり、後々取り返しがつかないことになってしまうかもしれません。そういう面では、若者の考えの尊重や個別化していくワークスタイルへの変革は、慎重に考えるべきかと思っています。
   私の研究室でも、研究室に入ったばかりの3年生が私や上級生とのコミュニケーションを面倒臭がるケースもあります。しかし大学院に進学し、下級生の卒業論文を手伝う立場になった時にうまく連携が取れなかったり関係性構築に苦戦する経験をすると、しっかりと向き合ってコミュニケーションを取らなければという意識も芽生えるようです。

観点ごとの「つながり度合い」の関係

創造性を発揮するために、互いを理解することは重要です。以下の図は、同僚とのつながり度合い(自部門/他部門の社員の何%と、それぞれの観点でのつながりを持てていると思うか)の回答値同士の相関係数を示した調査結果です。
   自分と同じ部門(自部門)の人の場合、相手の仕事に関わる情報を知っていることやプライベートな雑談もできる関係性があると、仕事の深い相談にもつながりやすくなります。一方で自分とは違う部門(他部門)の人が相手の場合、普段一緒にいる時間が短いので、相手の「仕事の情報」だけでなく「私的な情報」を知っていることが仕事の深い議論に関係してくる点が自部門との関係性と異なりました。

観点ごとの「つながり度合い」の関係

出典:WORK MILL RESERCH ISSUE 02

   ワークプレイスの計画では、「フランクなカフェスペースでの偶発的な交流」という考えがよく取り沙汰されています。
   オフィスにおいては、マグネットスペースで他部署の人との偶発的な交流を促そうと多くの施策が試みられていますが、相手がどういう人なのかを知らないと仕事の深い議論までつながりません。業務がスムーズであれば多少接点を減らしてもいいのではと考える人もいますが、新入社員や中途入社の人は関係性のスタートラインが異なるので、価値観の違いに気がつかないこともあります。こうした点に留意すると、私的な情報も含めた相手の理解が必要で、これは見失ってはいけないところです。

コミュニケーションの活性化のための統合的な仕組み

続いて、コミュニケーション活性化のための交流会やイベントスペースへの参加・活用意向をテーマに、心理的安全性やワークエンゲージメントを調査しました。
   ここで問題になったことは、職場環境に対する満足度(この調査においては、「心理的安全性」と「ワークエンゲージメント」の設問の回答値平均を指す)が高くないと、経営者の想いや社員の要望をもとに作られたラウンジスペースやカフェコーナーのようなスペースに人が行き交わず、使われない場所になってしまうことです。
   一方で、成果主義や年功序列が強すぎるといった理由で職場満足度が低い場合でも、参加しやすいイベントの実施や行きやすい空間の活用から始め、少しずつ時間をかけて職場満足度を高めていくことで、その場が活用されるようになる事例もあります。

コミュニケーションの活性化のための統合的な仕組み

出典:KNOWLEDGE2021はたらく距離感

新しいオフィスやフリーアドレスにお金をかけてもなかなか上手くいかないことがありますが、組織内での人間関係を含めて安心感が出るとうまくオフィスが活用されていくことが分かりました。
   業務のための出社というだけでなく、コミュニティとしての接点をつくることの重要性が、コロナ禍でより明らかになったと考えます。コロナ後のオフィスでは席数に対して出社率が低いところも多いですが、従来の指標ではオフィスへの投資価値を評価できなくなってきていると感じます。
   「この会社で働けて良かったな」とか「同僚とクリエイティブなディスカッションができた」という感情や体験を提供することがオフィスという場においてどれだけできるのかということを考えて、出社率が低くてもお金をかけてオフィス環境を整備することも重要になってきていると考えています。

*本ページ掲載内容の転用、転載、複製、改変等はご遠慮ください。


著者プロフィール

名古屋市立大学 佐藤 泰 様

佐藤   泰(さとう   たい)

名古屋市⽴⼤学 ⼤学院芸術⼯学研究科 建築都市領域 講師/博⼠ (⼈間科学)

早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了  博士(人間科学)
日本建築学会ワークプレイス小委員会・主査 (2022年度〜)
日本オフィス学会 学会誌委員⻑ (2023年度〜)
2020年度日本建築学会東海賞 (論文賞) 受賞

建築・都市空間の利用者である「ひと」の実態調査をもとにした「はたらく場」「はたらき方」の研究を中心に取り組まれており、「ひと」への関心から教育・保育施設の「学びの場」の研究も展開。

Planonの取り組み

健康的な職場環境の実現

オランダのPlanon本社ビルでは1100名の社員が所属しており、オランダでもまだ数少ないWell認証のプラチナを取得しています。
週に何日か在宅ワークで働いていますが、それでもPlanonは社員に対する快適なオフィスワークの提供が必要だと考えています。社員の健康の向上に、ゲーミフィケーションのアイデアも取り入れています。
   例えば、ジムを使用するときにチェックインするとこれがチケットになり、食堂でサラダを無料でもらうことができます。階段を使う社員の数をセンサーでカウントし、60%パーセントの使用率を超えると金曜日の午後にフリカンデルというオランダ固有のスナックが提供され、 Planonに搭載している様々なソリューションが、仲間と協力してコミュニケーションの場を繋げ「文脈」を形成しています。

地球環境への配慮

Planonではリノベーションの手段を選んでいます。毎年5%、カーボンフットプリントを減らすことをターゲットにしています。
オランダではおもに、エネルギー使用量を暖房に費やします。Planonではガスを一切使わずオール電化ヒートポンプによる空調を使用し、屋上では12万kw/時の太陽光発電を設置しています。換気扇はCO2センサーや利用者をカウントするオキュパンシーセンサーを使い、必要以上の換気を行わずエネルギーの削減に努めています。

インスパイアされるオフィス

Planonでは従業員同士がインスパイアしてパフォーマンスを高めようという考え方を取り入れています。
ジュードボールというゲームをする場所、あるいは家庭菜園や世界各地から植物を集めたグリーンハウスになっている食堂もあります。 金曜日の午後には食堂の一画をビーチバーとして利用し、メンバーと一緒に飲食を楽しむスペースとして活用しています。

コネクトインのアイデア

Planonでは従業員、お客様、パートナー、学生、スタートアップ企業、それらを繋げるアイデアを、オフィスの中に取り入れています。
オフィスの中にイノベーションラボを作り、ハイブリッドワークの中でも特にコミュニケーションするということを中心にしたオフィス作りにを取り組んでいます。
   もちろん、これらのコミュニケーションスペースは前述のインスパイアする場所も含めて、予約できるようにしてします。ハイブリッドワーク下においても、あえてそこに集まろうという行動を誘発しています。

製品紹介

Planon IWMS

Planon IWMS

Planon IWMS

豊富な標準データモデルから選択
ノーコーディングで機能構成
維持管理・運営コストの削減

Planon IWMS